真声会大阪支部 支部報発行(No.107)

文明が文化を壊している

大阪支部長 大村 益雄(1期作曲)

世界各地でテロが起こり、子どもを含む多くの一般の人々が犠牲になっています。この悲しい状況は、連日、テレビや新聞で報じられています。中東のシリアやイエメンなど、様々な国での内戦も終結していません。それが原因で起こる難民問題も拡大し続けています。世の中の格差に不満を持つ人が、世の中を不安定にしているのです。国の安全、民族の安全、コミュニティーの安全、家族の安全を保つことは、とても大切なことであり、一刻も早く正常な状況に戻ってほしいと願っています。

国内でも、東日本の震災復興問題、原発廃止、再稼働問題など、想定を超える環境変化が起こっています。多くの人々が、未だに避難地に滞在する状況に置かれています。

世界を巡る情報の流れが、世界情勢を更に不安定にしているのだと思います。昔は、世の中のニュースは、報道機関といわれる新聞やラジオやテレビによって伝えられました。しかし、今では、個人が発するユー・チューブやインターネットによって、人々の思いが世界に拡散されています。スマホの普及により、文字情報だけでなく、写真、動画、音声、音楽に至るまで、各個人が自ら作成し、発信し、各個人が直接受け取ることができます。デジタル処理による情報交信が可能になった結果、国境がなくなってきているのです。これは、技術革新、文明進化の結果です。

人間社会の進歩を、文化と文明とに分けて考えることができます。文化とは、人間の精神的な深まりの結果得られるもので、たとえば、昔の日本の風習でいえば、畳の部屋で襖を開ける場合、座って両手でそうーっと開けるのが、人前での嗜みであり、礼儀でもあり、これが文化です。これに比べて、文明とは、物質的な進歩であり、蝋燭の明かりが電灯になり、蛍光灯になり、LED照明に変わってくるのが、文明進化です。文明進化は、生活環境に多くの利便性をもたらしていますが、それを活用するのは人間です。文明に振り回わされてはいけないと思うのです。
音楽を聴く場合でも、昔は、生の音楽しかありませんでした。聴衆は、生の音楽を演奏する多くの演奏家を求めてきました。音楽が録音され、レコードになり、CDになり、ICメモリーになり、また、大きなスピーカーで聴いていた音楽が、今では個人で、イヤーフォンなどで聴くようになってきています。これもテクノロジーの進化であり、文明進化です。社会における音楽のあり方が変わってきているのです。一方、大きな劇場や、音楽ホールで、音楽を聴くという形態も変わってきています。

私は、文明進化による恩恵を高く評価しますが、一方、そのため人間の心を粗末に扱い、人間の精神文化を壊しているのではないかと危惧しているのです。世界情勢の大きな変化を認識しながら、身近なところで、心の文化を大切にする生活習慣、世の中のためになるささやかな行動を続けていきたいと思っているのです。
5月29日(日)の大阪支部の総会には、是非、お出かけください。詳細は次ページに記していますが、長年フランスで勉強してこられ、アクシデントも乗り越えていろんなものを掴んでこられた、ピアノの上敷領美絵さんの帰国を機に、演奏と併せてお話を聞かせていただこうと思います。後半は、音楽と社会について、懇談いたしましょう。社会に役立つ音楽について、ともに考える仲間が増えていくことを願っています。

支部報107

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