真声会大阪支部 支部報発行(No.108)

音楽との関わり

副支部長 大冨 栄里子(28期pf)
~ 総会が盛会に開かれました~

 

第1 部 総会催事
今年の記念催事は、前半、9年間のフランス音楽留学から今年3月に帰国された上敷領美絵さん(48期pf)による演奏とお話、そして後半では大阪支部を長年に渡って支えて下さっている金森重裕さん(6期cl)に現在の音楽界についての持論をお話しいただきました。
まず前半、聞き手の金森さんの紹介で上敷領さんが迎えられ、バッハ=ブラームス「シャコンヌ」(左手のために)の演奏から始まりました。この曲はブラームスが右手を痛めたクララ・シューマンのために書いたとされる左手だけで奏される作品です。鍵盤の上を飛び交う上敷領さんの左手から生み出される神聖な音群はやがて壮大な響きに発展、大曲を見事に弾ききって下さいました。〈上敷領さんは2007年に室内楽を学ぶためにフランスへ渡り、ようやくコンサート活動を始めた矢先に右手薬指に局所性ジストニア(脳神経運動機能の故障)を発症、活動を中止せざる得なくなりました。〉
「多くの音を左手五指でバランスをとるのが難しい、右手薬指は指を上げるだけで力が入ってしまう。それで薬指だけを内側に包んで弾いてみると、その方が弾きやすかったり、でもおかしいですよね」その時の苦労話を淡々と語る彼女の表情に暗さは見られません。続いてスクリャービンの左手のための小品よりノクターン。
「フランスは自由な国、時間の感覚がゆっくりで、どこへいっても待たされるのは当然。日本の感覚でイライラしていても始まらない。夏のバカンスは一か月ほど取って、海などでゆっくりと時間の流れを楽しむ。」など、文化の違いについても楽しくお話し下さいました。
その後、声楽伴奏に転向し、さらに自らベルカント唱法も学んだという美声をなんと弾き歌いでご披露!ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」から、ロジーナのアリア「今の歌声は」を全身で表現される彼女のステージに、会場もぐんぐん引き込まれていきました。
現在は、局所性ジストニアについて効果的な運動療法など、様々な角度からさらに研究を進め、また「ショパンにおける鍵盤の人間化」をテーマにした論文にも取り掛かっているとのこと。最後に両手で演奏されたショパンのノクターンは心に染み入るものでした。
後半は「音楽家の果たす役割は?」を議題に金森重裕さんが再び登場され、先週の東京でのお話しから始まりました。
両国の国技館で大相撲千秋楽の前日を観戦、翌日、歌舞伎座で菊五郎・吉右衛門らの歌舞伎鑑賞を体験したことを話され、やはりホンモノに実際に触れること、非日常的な体験の大切さ、を説かれました。
「音楽も日本の場合は非日常な体験、音楽家はそれに応えなければならない。自身、演奏にどこまで集中し、感動的体験までお客さんを引き込めているか、間違わないように無事演奏するということだけに終わってしまっていないか、聴衆から預かった貴重な時間を充分に満たしているか、を考えないと役割を果たしたとは言えないのではないか」と。
一方、「音楽家は社会の成り立ち、自分たちの置かれている立場をもっと理解しなければならない。政治というものが、人の幸せを第一義に考えなければならないのに、そうはなっていない。政治家がダメ、でも政治には関心がない、私の一票でどうなるものでもない、と諦めていませんか、でも無関心であっても無関係ではいられないのです。」と話され、「世の中すべてが、条例、規則で動いています。世の中を動かしているのが政治家であり、行政です。日本の文化的貧困は、政治にかかわる人の人間性の欠如にあります。ここを変えないとだめですが、ここを変えるのが一票なのです。その一票を投じる人たちが文化の大切さを理解し、音楽の素晴らしさを知らなければ今の世の中変わらないと思います。(支部報で記した「行政と文化」を参考にしてください。)
音楽家の使命は重大です。作曲家の千原英喜氏は「音楽家は人類の幸せのために遣わされているという使命を持たねばなりません」と言い、映画作家の大林宣彦氏は「人間社会を平和にする力を率先して発揮するのが文化・芸術です」と述べています。
私たち音楽家の社会的地位・処遇の向上を図るというのは、私たち当事者が為すべきことだ、という強い信念を持たねば、と思うことです。」と述べられました。
金森さんの熱い言葉に、客席からも「ナマの音楽を広めること」、「あらゆる機会に実践していくこと」、「音楽を通しての地域での活動や合唱指導などでも真剣に取り組み、音楽の素晴らしさを伝えることは重要」とそれぞれ自身の体験を通して、意見が多く発せられました。
困難をプラスのエネルギーに変えて前向きに音楽と関わっていく上敷領さんの突き抜けた大らかさと情熱。半生を音楽業界に委ね音楽家の現実を直視しながら、客観的な視点からの厳しくも温かい金森さんのお話し。
今回も充実した時間を堪能させていただきました。

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